愚行錯誤その5(映画『最後の決闘裁判』(ネタバレ含む可能性あり)を見た後のもやもや)

やれやれとあきれるほどの我が蒙昧。いかんともできず、ただ記すしかなく。
Xanthippespert 2021.11.07
誰でも

さすがにいろいろと立て込んできますと、なかなか更新できませんね。久しぶりです。

実は、前回報告した古本市以降も、バタバタといろんな業務に追い込まれていたのですが、その合間に、映画を数本見ておりました。

ひとまず今日ご紹介しますのは、リドリー・スコット監督の『最後の決闘裁判』です。公開から一か月ほどたって、そろそろ終了した劇場も増えておりますが、未見で楽しみにされている方にご迷惑をかけるのは本意ではないので「ネタバレ」の可能性をタイトルで書かせていただきました。といいましてもこれもご覧になる方の判断なので、ひとまずはその線引きは、お読みになる方にお任せした次第。(次のパラグラフからネタバレの可能性あります。)

「巨匠」の描く?な作品

リドリー・スコットといえば、私の世代的には非常に影響を受けた作品ばかり作成した、「巨匠」といってもいいベテランもベテラン、大ベテランの監督でして、80歳を超えておられると思います。その方にふさわしい作品といえなくもないのですが、3時間に迫る本作の私の感想は全体としては、「?」という印象になってしまいました。

この作品、実際に起こった事件の記録をもとにしており、そうした点で、様々な工夫がなされています。特に舞台が1380年代フランスという、歴史的に言えば百年戦争の後半期でして、フランスの領土がのノルマンコンクエスト以降、現在のイギリスにあたるドーバー海峡をはさんでの隣国イングランド王国の侵攻を受けて、実に現在のフランス領土の3分の1は敵国に占領されている時代以降の話です。なので冒頭のリム―ジュという内陸の敵国からの奪還戦は、百年戦争後半の何度目かの条約の結果もたらされた状況から再度紛争に発展した状況で、おそらくエドワード黒太子が本国に帰って以降の紛争と思われます。

こうした領地の位置関係や歴史、フランスの国土における位置関係がわかっていないと意味は取りずらいとは思いますが、映像として視聴者に分かるような工夫はされています。ただ、私の服装や細かな史実までは追い切れていないので、そのあたりの考証が十分な作品化までは専門家の所見を聞きたいところですが、素人的には傑出したといっていい出来だと思います。

また見せ場としての最後の決闘のシーン。敵役の聖職者出身の従騎士が、意外に強いんだなと思いつつ、主人公の夫である騎士との迫力のあるシーンの連続は、映画というより活劇的なインパクトにあふれており、まさに「手に汗握る」時間構成でした。

ここまではさすがの一言なのですが、肝心の物語の「?」な部分です。この作品は、大きく2つの側面があると思っています。歴史活劇の部分と、今回の主題に係る主人公マグリットという騎士の妻の生きざまを描いている部分です。「?」の部分とはまさに後半に係るところなのですが、このマグリットが、夫の知人である従騎士から強姦をされた事件が物語の中核にあります。その事件に前後して、夫の騎士、従騎士、マグリットの三者の視点から、事件の前後のそれぞれが見てきた世界を描き出すのですが、共通しているのは当時の上流階級(の中の下層階級)とはいえ女性の生き方の苦難です。封建時代でもあり、かつ封建領をめぐる権力関係に翻弄され、かつ家族においても政略結婚とキリスト教に裏打ちされた倫理監視社会の中で生活していく生きづらさ。そして、暴行という、非常に気づ付けられる事件が、三回も連続して生起します。

最終的には、粗暴な夫の提案である、決闘裁判において、マグリットに被害を与えた従騎士に制裁を与えようとするのですが、実はその決闘の結果によって自身の主張が否定された場合は、全裸にされさらし者になったうえで身を焼かれ処刑されるという、とてつもなくハイリスクなものを孕む制度を受け入れていきます。キリスト教的には死後の復活を願うために身を焼く処刑というのは生前生きながら焼かれることに加え死後の復活も願えない最大級の苦痛であった時代のことです。
この作品で「?」と思ったのは、こうした時代の、現代における疑似苦悩との類似性を見せる、600年たっても何ら変わることのない教訓を示すという点にあるのかもしれませんが、最後のラストシーンで、マグリットが我が子を子守をしながら見つめて微笑んで終わるシーンです。結局監督としては、歴史劇として、アクション劇としての迫力ある映像作成という点では、文句のない傑出した作品を作り上げたと思うのですが、主人公の女性の生きざまを描くという点では、私は主人公のマグリットの心象を追いきれませんでした。何かしっくりこないのです。そして、あえて、600年前の世界を現代で表現してどのようなメッセージがあったのか。歴史に強い方やフェミニスト論客の方々にもこの作品表を聞いてみたいところ。今のところ私にとっては、とても、「いいね」できない作品であることには違いないのです。

そういえば似た感覚があるひとが…

そして、何かそういう監督がいたなとふと思ったのが、高畑勲です。彼もものすごく映像表象で人を引き付ける巨匠であるのですが、私にとっては、ときに「?」という作品を作ってきた「巨匠」なのです。いずれその話はまた別の機会に。それでは皆様これから私は日曜に行って参ります。

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